スリップ(Slip)は交流誘導電動機の重要なパラメータであり、モーターのトルク(Torque)に大きく影響を与えます。スリップは同期速度と実際のロータ速度の差を同期速度で割った比率として定義されます。スリップは以下の式で表すことができます。

ここで:
s はスリップ
ns は同期速度
nr は実際のロータ速度
スリップがトルクに及ぼす影響
起動時のスリップ
起動時にはロータは静止しており、つまり
nr=0 となるため、スリップ s=1 となります。
起動時にはロータ電流が最大となり、磁束密度も最大となるため、高い起動トルク(Starting Torque)が得られます。
動作中のスリップ:
モーターが動作しているとき、ロータ速度
nr は同期速度
ns に近いがそれよりも小さいため、スリップ
s は 1 より小さいが 0 より大きい値になります。
スリップが大きくなるほど、ロータ電流も大きくなり、結果として電磁トルクも大きくなります。したがって、スリップはトルクに比例します。
最大トルク
特定のスリップ値、臨界スリップ(Critical Slip)において、モーターは最大トルク(Maximum Torque)を生成します。
最大トルクは通常、ロータ抵抗や漏れリアクタンスなどのモーター設計パラメータによりますが、約 0.2 から 0.3 のスリップで発生します。
定常運転
定常運転中、スリップは通常小さく、一般的には 0.01 から 0.05 の範囲です。
この時点で、モーターのトルクは比較的安定していますが、最大ではありません。
スリップとトルクの関係
スリップとトルクの関係は曲線で表現され、通常は放物線形です。曲線のピークは最大トルクに対応し、スリップが臨界値に達します。
スリップに影響を与える要因
負荷
負荷が増加すると、ロータ速度が低下し、スリップとトルクが増加して新しい平衡状態が確立されます。
負荷が最大トルクに対応する負荷を超えると、モーターは停止します。
ロータ抵抗
ロータ抵抗を増やすと、最大トルクと起動トルクが増加しますが、モーターの効率と動作速度が低下します。
供給電圧
供給電圧が低下すると、ロータ電流が減少し、トルクも減少します。逆に、供給電圧を増加させるとトルクが増加します。
まとめ
スリップは交流誘導電動機のトルクに大きな影響を与えます。スリップが大きくなるほどトルクも大きくなり、臨界スリップで最大トルクに達します。スリップとトルクの関係を理解することは、AC誘導電動機の適切な選択と使用に不可欠です。